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FEATURE / MOVEMENT

未来のレストランへ 11

YouTubeで家のキッチンとつながる

東京・外苑前「アクアパッツァ」 日髙良実さん

Jan 15, 2021

text by Michiko Watanabe / photographs by Masahiro Goda

2020年4月の緊急事態宣言以降、テイクアウトや通販、レシピ配信などレストランという限られた場所でしか共有できなかったものが、より多くの人の元へ届くようになりました。
窮地に立ったことで生み出された新しい役割をきっかけに飲食店は、次の時代に必要とされる店の在り方を模索して、本格的に生まれ変わろうとしています。その姿は、播かれた種が、懸命に芽を出そうとしている姿に重なります。
未来のレストランはどんな姿をしているのか?
ひと足早く芽を出しつつある5店の事例をお届けします。


ひだかよしみ
1957年生まれ。1990年の「アクアパッツァ」オープンと同時に料理長に。30周年の特別企画としてアクアパッツァ出身のシェフ4名と共作したおせち料理を「大丸・松阪屋」で販売した。

はじめは決して積極的ではなかった。しかし、よき師匠と出会い、YouTubeのノウハウをスポンジのように吸収。レストランの底力が次々に引き出され、再び店は回り始めた。

多くのレストラン同様、日髙シェフ率いる「アクアパッツァ」も3月、客足が激減、400名以上のキャンセルを出していた。路面店ではないからテイクアウトも厳しく、断腸の思いで4月1日から1カ月半完全休業することを決める。スタッフには感染予防のため自宅でワインやサービス、語学などの自宅学習を促し、日髙シェフも休業初日から融資など、店を継続するための方策に奔走。まさに崖っぷちだった。そんな真っ暗闇の中でも、小さな希望は生まれていた。

きっかけは、長野「リストランテ フローリア」の小林論史(あきふみ)シェフだった。実は小林さん、シェフ・ロピアという異名を持つ人気料理YouTuber。イタリア料理を盛り上げたいという思いで始めたYouTubeのフォロワーは現在、アマ、プロ合わせて約45万人。その彼が3月頭に「アクアパッツァ」に来店した折、日髙シェフに出演依頼をする。どうせ暇だからと、3月30日に収録。第1回のオンエアは休業中の4月3日、ロピアさんのチャンネルで、「イタリア料理界の巨匠 日髙良実シェフ直伝」と銘打って、アクアパッツァの作り方が披露された。4日にはボンゴレビアンコ、さらに5日には2人の対談が公開された。

これがすさまじい反響を呼ぶ。5月の時で、ボンゴレビアンコの視聴数は85万回を越えたというからものすごい。コメントも数多く寄せられた。「正直、料理のYouTube??とバカにしてたんです。これまで、いろんなメディアでレシピを紹介してきましたが、こんなに早く大きな反響があることに驚きました」


25〜45歳の男性が日髙シェフの新たなフォロワーに。

すっかり“改心”した日髙シェフ。直後、長野のロピアさんの店に行き、6本収録。営業再開の5月15日から6夜連続で公開された。これが、たった5日間で視聴回数が18万回を越える爆発的ヒット。いかなる質問にも瞬時に的確に答えるイタリア料理界の巨匠に、YouTubeの強みもフォロワーの要望や思いも知り尽くすロピアさんが、料理人ならではの視点でポイントを外さず突っ込んでいくという最強の構図。あ、そこ聞きたかった、そうそう、それが見たかったという、痒いところに手が届く内容で、フォロワーは大喜び。同じイタリア料理界でも、ロピアさんのフォロワーと日髙シェフのファン層が違っていたことも幸いした。ロピアさん同様、フォロワーも日髙シェフに魅了されていく。

チーズとジャガイモのカリカリ焼き(文末にレシピを紹介しています)
150万回以上(2020年11月時点)再生されたレシピ

日髙シェフがフリウリのトリチェージモにあるホテルレストランでの修業時代に覚えた家庭料理。茹でたジャガイモとたっぷりのチーズをフライパンでゆっくり溶かしながら表面をカリっと焼き上げる。店のオープン以来、常連さんに愛され続けている一品でもある。「フリッコ」という料理名だが、YouTubeでは「カリカリ焼き」と表現。Chef RopiaのYouTubeチャンネル(2020年5月20日配信)より。


レシピにトライした人が味の正解を求めて来店。
通販も即完売状態に。

ロピアさんが日髙シェフを大尊敬していることは、画面に流れる熱いコピーによく表れているし、日髙シェフもYouTubeへの上から目線を悔い改め、ロピアさんを師匠としてリスペクトしているのがよくわかる。互いの思いが、フォロワーにちゃんと伝わるのもメディアの力だ。視聴者は9割が男性。それも25歳から45歳が7割。これまで料理を作ったことがない人やレストラン経験の少ない人も多かったが、店を再開するや、店は大賑わい。レシピにトライした人たちが味を確認すべく、あるいは、朝から熱心に画面にかじりつく夫が気になった妻が、夫とともに訪れたのである。コミュニケーション・ツールとしてのYouTubeの機能が新しい顧客を生み、店は息を吹き返す。

そして7月31日、日髙シェフは満を持して、YouTubeチャンネルを開設する。これまで、ロピア師匠のそばで、何度も録画&放映を見てきた実績がものを言う内容だ。本物のイタリア料理だけれど、誰にでもマネできる丁寧な教え方、人柄が感じられる優しい語り口、自然なんだけど考え尽くされていて、見る者を惹きつける。料理を作る背景の厨房やスタッフの動き、棚の調味料や奥に見えるワインのボトルなど、見どころ満載。瞬く間にフォロワーが増え、10万人に迫る勢い。すぐさま、レストランの裏側を惜しげなく見せるサブチャンネルも開設する。


見どころはレシピだけにあらず。スタッフも出演中
日髙シェフが動画撮影をしている後ろでは、スタッフの作業風景が淡々と流れる。味見はスタッフが毎回交代でコメント。ソムリエが味見する時はワインの解説が付くなどプラスαのためになる情報も。いまや全員がYouTubeの出演者としてそれぞれの役割を担っている。週末、レシピに挑戦してもらえるよう毎週金曜の夜10時に配信。


(左)通販の内側も公開
レストランで提供する時とは異なる工程が発生する通販商品。導入した急速冷凍機の使い方や作業の流れをサブチャンネルで公開。プロも必見の内容だ。
(右)新兵器は「オズモ」
滑らかな動きの動画が撮影できる「OSMOPOCKET」が日髙シェフの最新兵器。動画コンテンツをさらに充実させようと目下、特訓中。成果はYouTubeでチェック!


YouTubeがレストランの潜在能力を次々と引き出した。

視聴回数の伸びに付随するように、通販の売り上げが急激に伸び、即完売が今も続く。なかなか店に来られない遠方のファンにも大人気なのだ。当然ながら、スタッフのモチベーションも急上昇。レストラン経営だけではない、新規顧客や新たな収益を生む太い柱が築かれたのである。このYouTube効果は瞠目に値する。まさに起死回生の一手となった。

日髙シェフが先輩として言う。「フォロワーを増やすことより、最初は自分の店のお客さんにダイレクトメールを送る感覚でトライしてみるといいと思います」。これからのレストランの一つの生き方を示唆する「アクアパッツァ」の有り様。業界全体に広がれば、コロナ苦境を突き破る大きな力となるに違いない。

<RECIPE>
■チーズとジャガイモのカリカリ焼き
材料(すべて適量)

ジャガイモ
4種のナチュラルチーズ
パルミジャーノチーズ
(動画ではタマネギのフォンドゥータを使用)

作り方
ジャガイモは茹でて皮をむき、おろし金ですり下ろすか、つぶす。
フライパンにジャガイモとチーズを同量入れ、木べらで混ぜながら中火でゆっくり炒める。
チーズが溶けて全体がつながり丸くなってきたら、数回返して表面がこんがりするまで焼く。



*本記事は雑誌『料理通信』2021年1月号 第2特集「未来のレストランへ vol.4」より抜粋してお届けしています。








◎アクアパッツァ
東京都港区南青山2-27-18 パサージュ青山2F
☎03-6434-7506
11:30~14:00LO、17:00~20:30LO
土、日曜、祝日11:30~20:00LO
(ランチ15:00LO、15:00~ディナーメニュー)
無休(年末年始休有)
東京メトロ外苑前駅より徒歩3分
https://acqua-pazza.jp/
日高良実のACQUAPAZZAチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC41-Om_oyruC2E7-ff7GkrA
ネットショップ
https://acquapazza.base.shop/






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