HOME 〉

JOURNAL / JAPAN

日本の食 知る・楽しむ

カツレツ「ぽん多本家」 since 1905

連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應

May 01, 2016

現在ではロースを使ったカツといえば脂身付きのまま揚げるのが一般的だが、ぽん多では脂をすべて取り除いたロース肉を使用している。創業からこのスタイルは変わらない。ソースも自家製だ。「カツレツ」2700円。

text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura

あんこに次いで好きなのが、揚げ物。それも、とんかつ好きです。中でも、上野にある「ぽん多本家」は、やさしい揚げ色の上品な味で、瞬く間に完食してしまいます。とんかつ専門店のように思われていますが、こちらは創業明治38(1905)年創業の洋食屋さん。ですから、とんかつではなく、カツレツなんですね。4代目店主・島田良彦さんを訪ねます。

洋食にみる日本人らしい肉仕事

初代の島田信二郎は、宮内省(現・宮内庁)大膳寮にお仕えし、西洋料理を担当していた人。ごはんに合う洋食を提供しようと開いたのが、この店でした。といっても、当時は、ハレの日にしか行けないような高級店だったんですね。ご予約のみで、お客様のご要望でコースをお作りする、いわば最先端のハイカラなお店だったんです。昭和になってから、アラカルトになり、ご要望があれば、ご飯と赤だしとおしんこをつけるという、今のスタイルになったようです。

戦後、4丁目から現在の3丁目に移転した。店の前に立つと、重厚な木の扉に迎えられ、思わず背筋が伸びる。

とんかつ御三家とか称されることもあるのですが、うちのはポークカツレツ。ロース肉のバラ先を取り除き、芯の部分のみを使います。一般的に豚肉が上質であることを示すために、よく、脂が甘いとか、脂の質をほめることが多いかと思うのですが、脂が付いていると、脂と赤身の揚がる時間が異なるため、どうしても赤身のほうが揚がりすぎる。うちでは赤身だけにして、取り除いた脂で作った自家製ラードで揚げることで、少しコクをのせています。これは初代の考え方。それを受け継いでいきたいと思っています。白っぽい揚げ色なのは、低めの温度から入れて、衣が肉から剥がれないようゆっくり揚げたいから。材料も大事ですが、揚げ油も同じくらい大事です。酢飯がダメなら、どんないい魚をのせてもダメ、というのと同じですね。だから、ラードは自家製です。揚げ物なんですから、揚げ油に「味」がないと。ラードの炊き加減もむずかしいんですよ。

入り口すぐは4席のカウンターとオープンキッチン。料理と同じく空間にも洋と和が混じり合い、独特の雰囲気を醸し出している。


2階には20席のテーブル席も。

カツレツはまず、そのまま召し上がってみてください。少し甘味があって、豚の香りが鼻からすっと抜けますでしょ?
カツはくどいものじゃない。あっさりしたものなんです。キャベツも、舌触りがいいよう、芯を丁寧に取って、葉脈に垂直に切って添えています。

4代目の島田良彦さん。兄弟で店を継ぎ、昔の味を今に伝える。

うちのコンセプトは「ご飯に合う洋食」。シチューの味つけにしても、ほんの少しだけですが、醤油ベースのもの、つまり「和」の要素を加え、ワインを少なめにして、ご飯に寄り添う味に仕上げています。タンシチューは黒毛和種のタンを用いています。これが今や稀少。ほんとうに手に入らない。タンそのものの味が違うんです。甘味と香りがある。シチューのソースは、ねかせながら3週間かけて作っています。じっくりと味わっていただければ・・・。コロッケやフライ、バタヤキもぜひご賞味ください。

店のもう一つの名物は、箸で崩せるほど柔らかく仕上げられた「タンシチュー」4320円。ぽん多のメニューはご飯や汁ものがつくセットではなく、すべて単品オーダー。「今では定食スタイルが主流なので、ごはんが出てこなくて驚かれる方もいらっしゃいますが、これも昔ながらのうちのスタイルです」。



◎ぽん多本家
東京都台東区上野3-23-3
☎03-3831-2351
11:00~14:00 16:30~20:00
月曜休
JR御徒町駅より徒歩3分

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。