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JOURNAL / JAPAN

日本 [山形]

まだ知られていない食の宝庫、天童

Dec 30, 2020

(左)純国産鶏種もみじ「いではのもみじ」/(中)純国産鶏種さくらで、米を食べて黄味が白い「白」/(右)純国産鶏種さくら「いではのさくら」

11月下旬、山形県東部にある天童市を囲む山々は秋が燃え立つ美しさ。炎のような赤、鮮やかな金、そしてブロンズ色のタペストリーに包まれた見事な姿を見せる宝珠山の中腹に、山寺(立石寺)など多くの御堂があります。俳聖・松尾芭蕉がこの地に感銘を受け、代表的な句のいくつかを詠んだことにも迷わずうなずける絶景です。


それ以上に魅力的なのは、この街の食文化です。天童では、人里離れた場所でさえ、魅力ある食がたくさんあります。例えば、山寺から車ですぐの「COZAB GELATO(コザブジェラート)」では、地元の食材を使って魅惑的なジェラートに仕立てています。へんぴな場所にある小さな店で、白いコック帽を粋にかぶった菓子職人が、空気のようにフワフワなチーズケーキを30年近くもの間つくり続けているのが、パティスリーの「ボンジュール」。

「天童ブルワリー」は、伝統ある旅館「天童温泉 桜桃の花 湯坊いちらく」の館内にあるマイクロブリュワリーです。20年以上前に醸造を始め、驚くほど良質なベルジャンスタイルのビールやピルスナーで宿泊客をもてなしています。旅のなかでこうした食のお宝と出会うと、発見した喜びもひとしおです。



天童は山形県の果樹栽培の中心地として知られています。人気の高いサクランボは国内生産量の70%を占め、高品質の梨、ラフランスも有名です。また優れた酒蔵も多い。食と酒は、人々の暮らしを豊かにするだけではなく、その土地、コミュニティで人と人との距離を一気に縮める役割を果たします。「有名な観光スポットがあるわけではないけれど、こうした日常の喜びこそが“ここにしかないもの、天童ならではのもの”なのです」と、「出羽桜酒造」の仲野益美社長は話します。

そうなんです。ここ天童には、驚きと発見が満ちあふれています。



酒は土地そのものを表現する

日本酒とワインのショップ、「La Jomon(らじょうもん)」は山形市に隣接する平清水地区にある、紅葉が美しい寺の向かいにありました。


酒が並んだ冷蔵ショーケースの前で、来店客に酒の説明に加えて、天童市や山形市のおすすめの飲食店まで紹介していたのが店主の熊谷太郎さんです。


日本酒のプロ、清酒専門評価者のひとりでもある熊谷さんは、大学時代に日本酒醸造家になることを決意。東京農業大学で醸造学を学んだ後、18年間で3つの蔵元を巡って酒造りに携わりました。2008年、消費者とのつながりを求めて現店を開きました。「La Jomon」は、純米酒を充実させた品揃えで、東北地方を中心に、蔵元とコラボレーションした限定酒も販売しています。


「日本酒は自然からの贈りものなんです」と熊谷さん。「土地そのものを、最も簡潔に表現したものだと言えます。水、田んぼなどテロワール、酒造りのプロセス、何世紀にもわたる醸造家の知恵……。日本酒の瓶の中にすべてが詰まっているのです」

◎La Jomon(らじょうもん)純米酒専門店
https://www.lajomon.com/



人を呼ぶクラフトビールを作りたい

山形の酒といえば日本酒が有名ですが、「天童ブルワリー」「ブリューラボ108」のようなクラフトビール醸造家も評判を集めています。


「湯坊いちらく」の専務、佐藤太一さんの「山形ならではの食材との相性がよく、この地へ人を惹きつけるような新しい一杯をつくりたい」との思いから、旅館の敷地内に小規模の醸造所を建てるアイデアが生まれました。前社長の佐藤哲也さんがベルギーに渡ってクラフトビールの醸造技術を学び、4年後の1999年、天童ブルワリーは醸造を開始しました。


天童ブルワリーでは最高品質の原材料を使って、2種類のビールを製造しています。99%の麦芽と1%のホップや地元産そばなどの副原料による、丸みのある滑らかな口当たりのピルスナー「SOBA DRY(そばドライ)」と、サクランボとラズベリーのピュレを使った、宝石のような色合いのクリーク「桜桃の花」です。どちらのビールも、いちらくでしか飲めません。


クラフトビールに合わせて、自家製のおつまみを日替わりで提供しています。山形名物、玉こんにゃくの醤油煮にクリーミーなゴルゴンゾーラソースをかけてモダンなひねりを加えた料理は、甘酸っぱいチェリービールと相性抜群です。出羽桜酒造の酒粕に漬けた香り高いクリームチーズはSOBA DRYによく合います。



◎天童ブルワリー
https://itiraku.com/?page_id=628



サステナブルなトマトづくり

天童の生産者たちが大事にしているのは、職人の技と品質へのあくなき探求です。トマト農園「とまとの森」を運営する「タックルファーム」オーナーの水沢正志さんがこの仕事を始めたきっかけは、地元の農業の将来に感じた不安からでした。「この辺りの農家の平均年齢は78歳。仕事を継ぐ人もいない中で、次世代はどうやって良質な食べものについて知り、食べていくことができるのでしょうか?」


水沢さんが始めたのは、ステビアなどの有機肥料を使った無農薬栽培でした。トマトは土耕栽培され、モーツァルトの曲が流れるハウスの中で整然と並び、渦を巻くつるの上で実が育っています。収穫されたトマトは小粒で香り高く、甘味と旨味のバランスが絶妙です。水沢さんによると、果実がみずみずしく、味わい深くなるのは、乳酸菌など「有用微生物群」を配合した土壌のおかげなのだそう。そしてモーツァルトは、この大事な微生物たちを活性化させるために流しているのだとか。生のトマトは地元でしか購入できないので、ぜひ山形を訪れて食べてみてください。


タックルファームのトマトで作った高品質のトマトジュースはオンラインで購入できますので、こちらもぜひ試してみてください。

◎タックルファーム とまとの森
http://takle-farm.jp/



幸せな環境が卵の味を変える

卵は、スーパーで買えるありふれた食材ですが、「半澤鶏卵」が営む「たまごの国 いではこっこ」の卵は特別です。農場で採れた生みたてで新鮮な卵を購入するため、地元のファンが朝から行列する人気ぶり。代表の半澤清彦さんは、天童のエコシステムがおいしい卵を育むと考えます。


近くに小川が流れ、風通しのよい鶏舎では、純国産鶏種「もみじ」が元気に卵を産んでいます。「ストレスのない自然な環境です。ハーブや善玉菌を豊富に含んだ飼料を与えていますが、これにより、丈夫で健康的になるんです」


(左)純国産鶏種もみじ「いではのもみじ」/(中)純国産鶏種さくらで、米を食べて黄味が白い「白」/(右)純国産鶏種さくら「いではのさくら」

「たまごの国 いではこっこ」のカフェでは、色々な種類の卵が選び放題で、卵かけご飯が食べられます。ひと口食べた瞬間、はっきりとわかりました。幸せに暮らす健康な鶏がおいしい卵を産むのだと。
もみじの卵黄は深いオレンジ色で、驚くほど濃厚で甘味があり、日々口にする食材と自然のつながりを実感できました。食材への感謝の気持ちを込めて味わう、素朴で最高の贅沢がここ、山形にはあります。

◎たまごの国 いではこっこ
https://idehacoc.co/





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