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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

梶原一生さん(かじわら・いっしょう)

十勝マンガリッツァ豚 生産者

Nov 08, 2021

text by Reiko Kakimoto / photographs by Hide Urabe
同緯度の豚食文化。そこに惹かれました。

マンガリッツァ豚といえば、ハンガリーの「食べられる国宝」として知られている。およそ200年前にハンガリーで誕生したといわれ、1940年頃にはハンガリー国内外で数百万頭が飼育されていたとされるが、以降、短期間で出荷でき増体のいい品種に取って代わられ、絶滅寸前にまでなった品種である。2004年にハンガリーの国宝に指定され、現在では種豚・母豚が管理されトレーサビリティが高い。

この希少な豚を北海道・十勝で飼育し始めたのは「十勝ロイヤルマンガリッツァ」代表の梶原一生さん。マンガリッツァ豚は毛の色違いで4系統あり、各系統で性格も脂肪の性質も、肉の味わいも違うという。最も原種に近いブロンド系統、絶滅したと言われていたが最近その存在が確認されたブラック系統、ブロンドと他系統の掛け合わせで生まれたレッド系統、ブラックとブロンドの掛け合わせで生まれたスワローベリーの4系統だ。十勝ではブラック系統を除く3系統が70頭ほど飼育されている。

「ハンガリーの飼育方法と同じく、十勝のマンガリッツァ豚も完全放牧・自然交配で飼育しています。豚たちは丘を駆け回り、がっしりとした身体を作ります。草の根や虫、そして北海道産の豆や穀物を食べて育ち、清流の天然水を飲んで育ちます。水は肉質を左右する非常に大切な要素で、殺菌した水道水だと腸内環境が悪くなってしまう」と梶原さん。出荷月齢もハンガリーに倣い、現在14カ月から20カ月までを試している。月齢が高くなることで肉の旨味は強くなるが、各ジャンルの料理にはどのあたりが適切なのか、契約するレストランと意見交換し知見を蓄積しているところだ。

マンガリッツァの「不都合な真実」

梶原さんは、十勝で豆類の仕入れ販売、飼料や食品製造などを事業とする「丸勝」の3代目だ。「日本の食料基地である北海道・十勝のリーディングカンパニー」を社是とする同社の精神を教えられて育った。

高校から留学していたニュージーランドから帰国後、丸勝に入社。そのとき任されたのが廃業した土地を買い取ったばかりの「十勝ヒルズ」の立ち上げだった。ガーデンを中心とした観光地として実績を作り、次のステップとして考えたのが食、つまりレストランの充実。同緯度の国を辿るなかでハンガリーの豚食文化に興味を持ち、現地へ視察に向かった先で大きな出会いがある。ハンガリー駐在の日本大使から紹介された「マンガリッツァ豚協会」の会長である。ここはマンガリッツァの種豚・母豚の管理や輸出を管理している。マンガリッツァ豚はハンガリー以外にもヨーロッパ各地や、アメリカ、カナダでも飼育されている。会長から梶原さんにこんな提案があった。

「アジアでは初となりますが、純血種の生体を輸出するから育ててみませんか?」

初めての動物を生体輸入するには膨大な手続きが必要だ。農水省、外務省、ハンガリー大使館に2年間何度も通った。

その中で、梶原さんは「不都合な真実」を知ることとなる。まず、ハンガリー国内では純血種の豚肉が流通しているものの、海外輸出用の肉にはデュロック種との交雑種(F1)を作っているというものだ。デュロック種は成長が早く、サシが入りやすい肉質だ。純血種の肉とぱっと見た限りは違いがそこまでわからない。しかし実は脂質が全く違い、融点の低くさらっとした脂が特長のマンガリッツァ豚に比べ、デュロックは融点が高く、強い脂を持っている。つまり、正反対の2種が交配することで、くどい脂のマンガリッツァ豚肉にあたる可能性があるということになるのだ。

次に、生体の輸出入についても、輸出入業者や生産者に知識が乏しいことなどから、交雑種の「偽マンガリッツァ豚」が各国で飼育されているということもわかってきた。14年にハンガリー国内から純血種の輸出ができなくなったのも、アメリカでマンガリッツァ交雑種が多く出回っているため、これ以上の拡大をハンガリーのマンガリッツァ豚協会が恐れたためだ。

日本国内での輸入許可が出た先での決定で落胆していた梶原さんに手をさしのべたのは、オランダ=ハンガリーのマンガリッツァ豚協会。オランダにも純血種のマンガリッツァがいるので、それらをオランダから輸出させようというものだった。複数頭の仔豚を入れて、国内で純血種の繁殖を目指していた梶原さんは、輸入候補となる豚の血統を遡り、近親相姦とならないような組み合わせを1年間かけて探し、2016年に3系統25頭の輸入にこぎ着けた。

今年、豚を放牧するための20ヘクタールの森林を買った。今後10年間で年間千頭出荷を目指す。「純血種のマンガリッツァといえば日本産」と評価される日も、そう遠くないかもしれない。


飼料メーカーの強みを生かし、北海道産の豆を中心とした飼料も作る。「冷涼な気候と、広大な土地、飼料で、北海道ならではの味わいを作りたい」と梶原さん。

梶原さんの主な仕事はマネジメントと営業だが、豚の飼育など現場作業も行うこともある。社員お揃いの作業用つなぎ。

長時間かけて飼育するためか、豚肉は加工や熟成に向く。同施設内のレストランのシェフ、ヴィクトルさんはマンガリッツァ豚料理のスペシャリスト。

マンガリッツァ豚は4系統あるが、うち3種類を飼育する。白黒がスワローベリー、ほかはブロンド、レッドがあり、肉質や脂質、味わいが異なる。放牧豚は殺菌されている水道水を与えると腸が弱くなるため、地下水を与えて育てる。


◎ 十勝ロイヤルマンガリッツァ 
北海道帯広市西25 条南1丁目1番地 
☎0155-37-4211
https://www.marukatsu.info/
Facebook:@tokachiroyalmangalica
Instagram:@tokachihills

雑誌『料理通信』2018年11月号掲載)

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