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SDGs

サバイバルレシピ06 長野・伊那【蜂の子】

古くて新しい、世界が注目するサステナブル食材

Nov 22, 2021

text and photographs by Mikiko Tamaki

⾷糧難、災害時をどう乗り越える?

人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。

目次






山国ならでは。栄養豊富な高級食材

2013年、国連食糧農業機関(FAO)が「世界の食料問題の解決策の一つ」として報告書を発表したことなどを契機に、近年注目が集まっている昆虫食。タンパク質、ミネラル、脂肪、必須アミノ酸など幅広い栄養素を備える健康食材であるうえ、生産コストが低く、環境への負荷も少ないとあって、「未来の食材」との呼び声も高い。

しかし、昆虫食そのものは決して目新しいものではない。その歴史は遠く紀元前にまで遡り、今もアジアやアフリカを中心に全世界で食されている昆虫類は1,990種類以上。多様に食べ継がれ息づく、歴史ある食文化の一つだ。

日本で代表的な昆虫食といえば、イナゴと蜂の子。そう言われてもピンとこない人も多いだろう。けれど、「蝗(いなご)捕り・蜂の仔(はちのこ)・蜂の子飯」などが俳句の秋の季語に連ねられているほど、実は昔から日本人の暮らしにはなじみ深いもの。現在も山間部を中心にこれらを食べる文化は綿々と受け継がれている。そう、日本は昆虫食先進国とさえ言えるのだ。

では、古くて新しいこの食材はいかに捕獲され、食べられてきたのか。長野県伊那市にて行われている、蜂の子を採取するための伝統猟「蜂追い」の様子を取材した。


追って、育てて、食べる醍醐味

「『蜂の子』といっても、すべてのハチを食べるわけではありません。ここ南信州の伊那谷(いなだに)地域では、土地の言葉で『スガレ』と呼ばれるクロスズメバチおよびシダクロスズメバチを中心に、スズメバチやアシナガバチなどが好まれています。蜂の子をたくわえた巣は、1kg1万円程度で取引されるほどの高級食材です」

そう話すのは、伊那市地蜂愛好会会長・山口政幸さん。「子どもの頃、運動会のごちそうと言えば蜂の子ご飯のおにぎりだった」という山口さんは、小学校6年生のころから、じつに約60年にわたり蜂追いを楽しんできた大ベテランだ。

伊那市地蜂愛好会・山口政幸さん。「後継者育成が課題。ぜひ伊那市地蜂愛好会へのご加入をお待ちしています」。後ろに見えるのは採取したスガレを飼育している巣箱。

同会の主な蜂追い場である伊那市市民の森を訪れると、すでにあちこちのアカマツの木に、針や糸で留められた生のイカが吊るされている。

「いわゆる撒き餌をして、まずスガレをおびき寄せるんです。スガレは肉食で、鶏レバーや生きた昆虫類などが好物。なかでもイカは、匂いも強いからか最も食いつきやすいんです」

幹につけたイカ。よく見るとすでに1匹やってきている。

イカにとまっている「スガレ」(シダクロスズメバチ)。その場では食べず、子育てのためすべて巣へ持ち帰るのだとか。

なるほど、ほどなくしてスガレがイカに群がってきた。すかさず山口さんは近づき、なにやらハチに与えている。

「こよりの先に小さく切ったエサをつけ、スガレにくわえさせているんです。ヒラヒラと舞うこよりを頼りに、巣に戻るスガレを追いかけて、土中にある巣の場所を探し当てる。それが『蜂追い』です」

ふいに、エサをくわえたスガレがふわりと宙に舞い、巣へと戻っていく。「行ったぞ!」と、草木をかきわけて大人たちが夢中で後を追いかける。それでも途中でスガレが糸を切ってしまったり、こよりを落としてしまったりと、なかなかこよりをつけたまま巣にたどりついてくれない。結局、この日は、あらかじめ目星をつけておいた場所の巣を掘り出すことになった。


「逃すなよ!」「行った行った!」と蜂を追う声が飛び交う。

こよりをつけたスガレが、山口会長の帽子にとまった。

煙幕を焚き、ハチの活動を鈍らせてから土中にある巣を掘り出す。もちろん刺される危険もあり、もっとも緊張する時間だ。

今回掘り出した巣は長さ30㎝ほどの大きさで、画像は層になっているのを切り分けたところ。「なかなか大きな巣。子もたくさん詰まっています」(山口会長)

本来の猟期である初夏ならば、こうして探し当てた巣を持ち帰って数カ月飼育し、巣を大きくさせ子を増やしてから食べるのが近年の楽しみ方なのだとか。スガレの食文化には「追う、育てる、食べる」という3つの楽しみがあると言われるゆえんだ。

「スガレとの共生関係を保つため、私たちは蜂追いだけでなく女王蜂の保護活動も行っています。これからもスガレを食べ続けるためには、豊かな自然環境の保全も欠かせません」(山口さん)


成虫を加えて風味アップ! 「蜂の子の甘露煮」の作り方

油分を多く含み、コク深い味わいの蜂の子。海が遠く、魚介類が入手しづらいという土地柄も手伝い、地域では珍味というよりも「おいしい食材」として大人から子どもまで食べ親しまれてきた。佃煮や炊き込みご飯のほか、近年はガーリック炒めなど、洋風のレシピでも楽しまれている。

上伊那郡中川村在住の湯澤千文(ちふみ)さんに、定番の甘露煮を作っていただいた。

湯澤千文さん。突然の訪問にもかかわらず、快く引き受けて作り方を見せてくれた。

「このあたりの人にとって、蜂の子はやっぱり、子どもの頃からのごちそうです。甘辛く煮詰めた甘露煮は、ご飯が進むおいしさ。今回の巣は子ばかりだったけれど、本当は幼虫から成虫まで、全部入っているとより味がよくなります。幼虫はクリーミーで、成虫は香ばしく歯応えもよいので、合わさることでより風味豊かになるんですよ」(湯澤さん)

[材料] (作りやすい分量)
地蜂(蜂の子と成虫)・・・200g
酒・・・大さじ3
だし醤油・・・大さじ4〜5
みりん・・・大さじ2
砂糖・・・大さじ2〜3

1. 蜂の子を取り出す
新聞紙などの上で、巣のふたを取り除き、蜂の子と成虫を取り出す。ピンセットを使うと取りやすい。取り出した蜂の子は、軽くごみを取り除く。(風味が落ちるため、なるべく水洗いはしない)

2. 鍋で煮る
鍋に酒、だし醤油、みりん、砂糖を入れて火にかける。沸騰したところで1を入れて中弱火にし、汁気がなくなるまで煮詰める。

3.完成
冷蔵庫で3〜5日程度保存できる。

【動画をcheck!】「蜂の子の甘露煮」の作り方


<蜂の子を購入できる場所>
◎産直市場 グリーンファーム
長野県伊那市ますみヶ丘351-7
☎0265-74-5351
https://green-farm.asia/

取材協力
伊那市地蜂愛好会(伊那市役所農林部・耕地林務課林務係)
長野伊那谷観光局


玉木美企子(たまきみきこ)
東京都出身の編集・ライター。2014年に南信州に暮らしと仕事の拠点を移し、全国各地の食・農・暮らしにまつわる取材や企画編集を行なう。2020年より長野伊那谷観光局アドバイザーを務めるなど、地域の観光広報活動等にも積極的に関わっている。「天然生活WEB」(扶桑社)にて、南信州での日々や旅先でのできごとを綴ったエッセイ『村ぐらし、まちあるき。』を連載中。
https://www.tobira-sha.com/

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